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東京高等裁判所 昭和34年(ラ)961号 決定 1960年2月09日

抗告人 木村りう 外一名

相手方 木村美佐子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意及び理由は、末尾記載の通りで、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

親権者がその管理する子の財産を売却する行為を以て、親権者の財産管理として失当なものと見るかどうかは、単に抗告人所論の如く、不動産を消費し易い金銭に換えることは財産保有について危険を招くものであるというが如き観点だけから判定すべきものではなく、その財産を売却するに至つた動機、原因その財産の売却が、現在及び将来における子の財産の維持運営ないしは子の生活全体に亘る諸般の事情から見て、失当であるかどうかを検討して判定すべきものである。しかして、この観点から、原審の審理の結果に現れた諸般の事情を考察検討するに、相手方が所論宅地を売却しようとしていることを以て、同人の親権者としての財産管理行為として失当なものとは認められない。その他記録を精査しても原審判を取消すべき理由を発見し得ない。

よつて主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 内田護文 裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 入山実)

参照 抗告の理由

本件の争点は第一目録記載の宅地一一二坪九合七勺の残地六二坪一合六勺(未成年者晃造の所有財産中唯一の高価物件)を必要もないのに相手方が売却しようと企ていることが管理権喪失の原因となるか否やの点である。

相手方は原審判理由記載のように第二目録記載の土地の一部を金一、二〇〇、〇〇〇円にて売却し、内金四〇〇、〇〇〇円余を従前の負債整理、生活費等に当て、内金三〇〇、〇〇〇円余で宅地六〇坪を購入し、その余の金四〇〇、〇〇〇円余を駿河銀行その他に預け入れた上、実家に帰り二子の教育に深い関心を寄せ堅実に新たな生活設計を営みつつあること、及びかくの如く生活環境が一変した以上晃造所有の前記宅地として保有しておくことの必要性はさして存しないことが認められる。しかし、相手方が晃造等を連れて実家に帰り生活環境が一変したからといつて晃造所有の前記宅地を宅地として保有しておくことの必要性はさして存しないとは認められない。

凡そ不動産を変じて消費し易き金銭となすことは、財産保有について危険性を措くものである。判例は民法第四二四条の詐害行為の成立について永くこの見解を支持している。

右宅地売却につき相手方の企ては晃造の財産に対する不当管理である。

よつて抗告の趣旨通りの決定を求めるものである。

第一物件目録

沼津市西間門字南側四百六拾参番

一、宅地 百拾弐坪九合七勺

沼津市西間門四百六拾参番

一、木造瓦葺平家建居宅 壱棟

建坪 拾六坪九合八勺

沼津市西間門字南側四百八拾六番の壱

一、畑 参畝拾壱歩

沼津市西間門字南側四百八拾六番の四

一、畑 壱畝拾壱歩(宅地四拾壱坪)

沼津市西間門字南側四百八拾六番の五

一、畑 九歩(宅地九坪)

沼津市西間門字南側四百八拾五番の参

一、山林 弐坪

第二物件目録

沼津市西間門字樋下七拾六番

一、田 九畝拾歩 外畦畔九歩

同市西間門字西通百九拾九番の壱

一、畑 壱畝弐拾壱歩

同所字同百九拾九番の五

一、畑 壱畝弐拾参歩

同所字同百九拾九番の六

一、畑 壱畝拾四歩

同所字同百九拾九番の七

一、畑 壱畝拾七歩

同所字同百九拾九番の八

一、畑 壱畝拾壱歩

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